I was only joking訳したりとか

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【Pitchfork】Best Album 2011 No5.Girls/Father,son,holy ghost 16:08
 

05. Girls: Father, Son, Holy Ghost [True Panther]

タイトルが示すように、Girls2009年のデビュー作『Album』はシンプルさの勝利だった。ローラやローレン・マリーたちについて歌う曲での馴染みある50‘s ロックの引用から、同じリフレインを何度も何度も繰り返すことでシンガロングアンセムを創りだす「ヘイ・ジュード」トリックを盗んだ「Hellhole Ratrace」(http://pitchfork.com/tv/musicvideos/172-hellhole-ratrace/) まで。しかし、Girlsについての記事を一つでも読んだ人は誰でも、リーダーChirstopher Owensの人生がピザとワインのボトルに彩られたものなどではないことを知っていたし、Girlsのより暗いサブテクストが次のフルレングス作品で前面に現れるだろうと思っていた。

これはへヴィーなレコードだーそれは、ただ「Die」でGirlsが驚くべきことに「ブラックサバス筋肉」を駆使しようとしたからだけではない。最初のアルバムがChristopherの「痩せこけた身体」や「汚い髪の毛」についての自嘲気味な告白から始まったのに比べると、『FatherSonHoly Ghost』は恐れを知らない自信にあふれていて、『Album』での今にも壊れそうなスクラップ感を避け、Billy Prestonがキーボードを弾いていた時代のBeatlesや70年代初頭のPink Floydをクラシック・ロック・レディオ風に洗練させることによって(The Dark Side of the Moon のお手軽なコピーだとは思ってはいけない、「Vomit」のゴスペル風のクライマックスはThe Wizard of Oz の竜巻のシーンに間違いなく良くマッチしている)
、彼らのテーマー色褪せるロマンス、精神の空虚、家族との和解ーに自らのへヴィネスを込めて果敢にタックルしている。そして『Album』がもっとも魅力的な曲を前に寄せてしまっているのに対し、『Father,son,Holy Ghost』は後半の素晴らしい「Forgiveness」-
Owenの人生のもっとも困難な対話を覗いてしまったと思えるほどに生々しく荒廃した8分間にいたるまですべてが強力にビルドアップされている。Girlsはデビューアルバムのタイトルをこのアルバムにつけるべきだった。『Father,Son Holy Ghost』は大文字で「A」をつけた(つまりアルバムとしてたしかな魅力を備えた)「一枚のアルバム(A Album)」なのだ。--Stuart Berman


原文(http://pitchfork.com/features/staff-lists/8727-the-top-50-albums-of-2011/5/?utm_source=related

As its title indicated, Girls' 2009 debut, Album, was a triumph of simplicity, from its familiar 50s-rock references to all the songs about Lauras and Lauren Maries to the way "Hellhole Ratrace" copped the "Hey Jude" trick of repeating the same refrain over and over again to create an instant sing-along anthem. But anyone who's read a single article about Girls knows that leader Christopher Owens' life hasn't been all pizzas and bottles of wine, and this darker subtext came to the fore on the band's second full-length.

This is a heavy record-- and not just because Girls try to flex some surprising Black Sabbath muscle on "Die". For an album that begins with Owens' self-deprecatingly acknowledging his "bony body" and "dirty hair," Father, Son, Holy Ghost is brimming with confidence and fearlessness, as Girls tackle tough subject matters-- fading romance, spiritual emptiness, reconciling with family-- with the weightiness they deserve, by eschewing Album's ramshackle scrappiness for the classic-rock-radio sophistication of Billy Preston-era Beatles and early-70s Pink Floyd. (Should you not have a copy of The Dark Side of the Moon handy, the gospelized climax of "Vomit" would no doubt match up really well with the tornado scene in The Wizard of Oz.) And where Album frontloaded its most immediately engaging songs, everything on Father, Son, Holy Ghost feels like a steady build-up to the late-act stunner "Forgiveness", eight minutes of understated devastation that feels like we're eavesdropping in on the most difficult conversation of Owens' life. Girls were too quick to name their debut record-- even more so than its predecessor, Father, Son, Holy Ghost is a capital-A Album. --Stuart Berman

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【Pitchfork】Best Album 2011 No.7 tUnE-yArDs/w h o k i l l 13:15


07. tUnE-yArDs: w h o k i l l [4AD]

Merrill Garbusのパーカッシヴな『w h o k i l l』の要素が多様なジャンルや文化からひっぱってきたものであるとしても、聴いている間、私はWalt Whitmanのことを思い浮かべていた。この二人の恐れ知らずで愉快な変人たちは生身の肉体を祝福しようとする嗜好を共有しており、また国歌を、彼らの落書き好きな手で書き換えようとする意志を持っている。『w h o k i l l』オープニングの一斉射撃「My Country」にやられる。「あなたがいること/甘美な自由の大地/なぜあなたの腕の中で未来を見られないの?」

このような問いかけをするような歌が必要だった年があったとすれば、それは2011年だった。『w h o k i l l 』はこの国ー経済的不平等、どんどん減っていく天然資源、変わりそうもない政治と社会の乖離に直面し、壊れかけているこの国の現在を表した手書きの地図である。「目を開いていた状態で/幸せでいられるっていうの?」Garbusは「My Country」の途中で叫ぶが、しかし『w h o k i l l 』の勇敢かつ非凡なところは醜悪さ、内面の闘い(Garbusが時々駆使するボーカルループはまるで彼女が自分自身と熱論を繰り広げているように聞こえる)、もしくは果てしなくからまった関係性にもめげることなく決して目を閉じないところである。「Riotrit」のなかで、喉の可能性を最大限に利用した彼女の声は弱々しい告白から奇妙に開放的なものに変わる。「暴力の中には私の理解できない自由がある/そんなもの今までは一度も感じなかった!」

『w h o k i l l』の10曲それぞれが特異な声と結びついており、またこれらの曲は、人と結びつきたいというという単純すぎて忘れてしまうような人間としての欲求を思い出させる。10月中旬、彼女の国の連邦議会議事堂から数マイルしか離れておらず、反金融経済デモの支部からもう少し離れたところで、私はソールドアウトしたGarbusのショウを見たが、彼女は最近のセットにいつも入れているコールアンドレスポンスをしていた。「生きたいの?DO YOU WANT TO LIVE?」彼女はオーディエンスに尋ねる。それに続く会場全体から発されたうなり声がこのように応えたのは必然だった。「YEAH!」--Lindsay Zoladz


原文(http://pitchfork.com/features/staff-lists/8727-the-top-50-albums-of-2011/5/?utm_source=related

Though Merrill Garbus' percussive w h o k i l l pulls from a variety of genres and cultures, when listening to it I kept coming back to Walt Whitman. The two fearlessly gleeful weirdos share a penchant for celebrating real live flesh, and they also have a thing for rewriting national anthems in their own, scribbled hands. w h o k i l l's opening salvo is a killer: "My country, 'tis of thee/ Sweet land of liberty/ How come I cannot see my future within your arms?"

If ever there were a year that needed songs asking questions like that one, it was 2011. True to its times, w h o k i l l is a hand-rendered map of a shrunken country: fractured in the face of economic inequality, dwindling natural resources, and seemingly insurmountable political and social divides. "With my eyes open, how can I be happy?" Garbus shouts midway through "My Country", but the bravery and the genius of w h o k i l l is in how it never once closes its eyes, undaunted by ugliness, internal struggles (Garbus sometimes uses vocal loops in such a way that it sounds like she's having a heated argument with herself), or even the most complex revelations. In "Riotriot", the sheer full-throated power of her voice turns a squirmy confession into something strangely liberating: "There is a freedom in violence that I don't understand/ And like I've never felt before!"

w h o k i l l's 10 songs-of-self are testaments to the power of an idiosyncratic voice, and they're also reminders of the deceptively simple human demands that unite us. In mid-October, a few miles from her country's capitol building and a few more from the city's branch of the Occupation, I saw Garbus open a sold-out show with the call-and-response chant she's opening all her sets with these days. "DO YOU WANT TO LIVE?" she asked the audience. The unanimous roar that followed was as inevitable as it was affirming: YEAH! --Lindsay Zoladz



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正気の探求 −Telebossa/『Telebossa』 01:06



 



 穏やかで、不安定に揺れるような印象のピアノの音が左右から交互に聞こえてくる。
Aと高いF#と低いGが、倍音を多く含んだ単音で間をあけて鳴らされている。しばらくピアノが繰り返されたあと、ギターとチェロと歌と、閉じた口を勢いよく広げた時のような「ンパッ」という効果音が鳴り、とぼけているのかシリアスなのかわからない顔つきで曲が進行を始める。Telebossaのアルバムの1曲目「Feltro no fermo(鉄の中のフェルト)」はこのように始まります。

Telebossaは二人のミュージシャンによるユニットです。ライナーノーツ、ホームページ(http://telebossa.com/)に拠れば、ブラジル出身、50代のシンガー・ギタリスト、シコ・メロとドイツ人のチェリストであるニコラス・ブスマンとの二人組。二人とも現代音楽やエレクトロニクス音楽に造詣が深く、それぞれが個別の活動で作った作品にはそうした音楽の色が強いとのこと。Telebossaのアルバムはシコ・メロのオリジナルが2曲、ブスマンのオリジナルが1曲、残りはブラジルの1930年代〜40年代の曲のカヴァーで構成されています。

シコ・メロの爪弾くギターは少しずつとても緩やかに、しかし確実にコードの色を変えてゆきます。穏やかな表情はいつのまにか不穏な雲に隠れ、そうかと思えば気付かぬうちに晴れ間が覗く。コードの中の一音、二音をずらすだけで安らぎから哀しみへ。そんなギターの上にブスマンの奏でるチェロの音が鮮やかな色を塗っていきます。ブスマンの演奏は時に明朗に流麗にメロディを鳴らし、時には掠れた音を鳴らすなどをして表現に幅を持たせています。そして、印象的な効果音がちりばめられます。雨の音や仏教風の鐘の音や動物の鳴き声のような音。不穏な爆発音。このような効果音は非常に気持ちよく、そちらにばかり耳が向かう瞬間があります。こうした快楽的な音を聴かせる目的で、曲という枠組みを作っているのではないかと考えてしまうほどに、

この穏やかさと不安感の間を、歓びと哀しみの間を行き来するような音楽は、どこか荒れ果てた土地で、大地を砕かれて居る場処をなくしたもののために鳴るように聞こえます。連想するのはガルシア・マルケスの『族長の秋』やマリオ・バルガス=リョサの『チボの饗宴』といったラテンアメリカ作家の独裁者小説。独裁体制の末に退廃に身を曝した国の荒涼。有無を言わせぬ暴力の風の中で突然に、居場所と大切なものの命を、当たり前のように存在した賭けがえのない現在と未来を奪われた人間の荒涼。その荒涼の引き金を引いた独裁者自身の精神における荒涼。そうした荒れ果てた景色に溶け込むように鳴らされる音楽として、Telebossaは最適であるかのように感じます。この音楽には静けさが漂っていますが、その静けさは激しさを想起させる静けさなのです。

この音楽には作り手の故郷である、ブラジルとドイツの匂いを漂わせていると同時に、仏教的な匂いも感じさせます。アルバムの所々で聞こえるピアノや鐘の音はどこかジョン・ケージのプリペイド・ピアノによる音楽の打楽器的響きを思い起こさせます。ケージの対話本「ジョン・ケージ 小鳥たちのために」のなかで、ケージはブディズムの影響について語りますが、そこで語られる世界観は「世界は常に変わり続ける、そのことは変わらない」というもの。世界は「在る」のではなく「成る」。常に変化し続ける世界。テレボッサの少しずつ変化していくという曲構造はケージが語る仏教の世界観と重なっているように映ります。なにより『Telebossa』6曲目のタイトルは「Samba do Budista(仏教徒のサンバ)」です。

Telebossa』の前半は15/8拍子の曲や、4/4ではあるけれど8小節ではなく7小節で一区切りになる曲など複雑なリズム構造の曲が続きます。しかし、インストの「Der Falsche Raum」を挟み、後半に2曲、「Samba do Budista」と「Amoroso」は拍の取りやすい4/4拍子です。シンプルなビートに変わると同時に曲のカラーはよりディープな哀しみを帯びてゆきます。リズムは複雑からシンプルに、テーマはディープな方向というアルバムの構造はTha Blue Herbのアルバム『Sell Our Soul』と重なります。そして『Sell Our Soul』の最後の曲のタイトル、「サイの角のようにただ独り歩め」はブッダの言葉からの引用です。世界の流動性から「ただ独り歩んでいく」絶対的な孤独を認識することへ。『Telebossa』の底で響く低音はこのような変化を遂げています。

ここまで読んで、もしかしたら重たい作品のように感じるかもしれません。とはいえこのアルバムはリラックスして聴くことができます。優しさや呑気ささえ感じるかもしれません。ただ、あなたが深いところまで潜っていけば、そこには優れたBGMとしての顔以外にあらゆる発見があるのだと思います。そうした深みを持ちながらも、この作品は呑気な顔を忘れてはいない。もしかしたらこのアルバムは、簡単に受け入れることが困難な不条理のなかにいても穏やかさを保ち続けるために役立つアルバムなのかもしれません。

 

 

 
 

 

 

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【Pitchfork】 Best Track 2011 No.1 M83/Midnight City 17:46
 前回は「Pitchfork」の2011ベストアルバムの記事を訳したので、今回は2011ベストトラック、M83の「MIdnight City」についての記事を訳してみました。
原文はこちら→http://pitchfork.com/features/staff-lists/8726-the-top-100-tracks-of-2011/10/


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01. M83"Midnight City" [Mute]


 M83のその奇妙なキャリアの中で、Anthony Gonzalezの音楽は壮大なドローンからフューチャリスティックで大げさなサウンドへ、さらにロマンティックなニューウェーブへと変遷していった。
明確な筋道があるのかもしれないが、それは拡張的で限定のないたゆたいから、短くきちっとパックされた一口サイズのポップなエモーションへゆっくりとズームしていくプロセスである。そして、幾多の経験を重ねた長い活動を経て、「Midnight City」―M83のもっともパワフルで勝利の感情をもたらすトラックは生まれた。

 Gonzalezは、あなたが一人でピアノに向かって適当に弾いたような曲にも適切なヴァース、コーラス、インストのブリッジをつけることで素晴らしい曲に変えるエキスパートであるのだが、長い間そのソングライティング能力の領土の中で安住していた。しかし、「MIdnight City」のもっとも素晴らしいところは、なによりまず音のみで曲のストーリーを展開させているところである。推進力のあるビート、切迫した声のレイヤー、キャッチーなシンセ、印象的なリズムループが4分間に凝縮されており、行き過ぎになるところを今や時代精神の音となった感のあるサクソフォンの音がアウトロに響き、きっちりと全体を締めている。

 音の力以上に、「Midnight City」は強烈な意味を宿している。Gonzalezがなにを歌っているのかわからなくても、あなたはこの曲の意味するものに何回でも出会うことができる。まず、この曲は単純にシティライフを謳ったものであるが、同時にGonzalezをここまで導いた音楽に対する究極的なトリビュートにも聞こえる。彼はインタビューの中でthe Smashing Pumpkinsの『Mellon Collie and the INfinite Sadness』(邦題『メロンコリー、そして終わりのない悲しみ』)からの影響について言及している。たしかに「Midnight City」はGonzalezにとっての「1979」(→http://www.youtube.com/watch?v=4aeETEoNfOg)のように聞こえる。両者の間にはすぐに記憶に残るリフや、あこがれを歌う際のやさしいフィーリングなど共通点は多い、しかし、「Midnight City」は未来が続く限り、変化することを運命づけるような曲である。集合的記憶を呼びおこすためではなく、新しい記憶を作り出すためのサウンドトラックなのだ。--Brandon Stosuy


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ついでに「Midnight City」の歌詞も訳してみました。


車の中で待っている
闇の中で走り始めるのを待っている
夜の街が大きくなる
彼女の瞳をみてごらん、彼女の瞳も大きくなっている

車の中で待っている
闇の中で走り始めるのを待っている
ラウンジで飲みながら
ネオンサインを追っかけている

轟音が鳴り響くのを待っている
地平線が変わっていくのを眺めている
街はぼくの教会
きらめくような薄明かりの中でぼくを包み込む


車の中で待っている
ちょうどその時が来るのを待っている
車の中で待っている
ちょうどその時が来るのを待っている
車の中で待っている
ちょうどその時が来るのを待っている



Waiting in a car
Waiting for a ride in the dark
The night city grows
Look and see her eyes, they glow

Waiting in a car
Waiting for a ride in the dark
Drinking in the lounge
Following the neon signs
[ Lyrics from: http://www.lyricsty.com/m83-midnight-city-lyrics.html ]
Waiting for a roar
Looking at the mutating skyline
The city is my church
It wraps me in the sparkling twilight

Waiting in a car
Waiting for the right time
Waiting in a car
Waiting for the right time
Waiting in a car
Waiting for the right time
Waiting in a car
Waiting for the right time
Waiting in a car
Waiting for a ride in the dark

「Midnight City」のPVはこちらです→http://www.youtube.com/watch?v=dX3k_QDnzHE

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【Pitchfork】Best Album 2011 No.1 Bon Iver/『Bon Iver』 22:14

 北米の音楽サイト「PITCHFORK」、ここ10年くらいですっかり著名になりましたが、意外と和訳は出回っていないようです。というわけで記事の一部を訳してみることにしてみました。ぼくは英語の専門家でもないので誤訳もあるかと思います。訂正して頂けると僥倖です。
 今回は2011年PITCHFORK年間ベストアルバムに選出されたBon Iverのアルバム『Bon Iver』の記事を訳してみました。時間があれば他の記事も訳していきたいと考えております。原文はこちら→http://pitchfork.com/features/staff-lists/8727-the-top-50-albums-of-2011/5/

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01. Bon Iver: Bon Iver [Jagjaguwar]


  『Bon Iver』はBon Iverの神話から Bon Iverを解き放つレコードかもしれない― 終わることなく繰り返される創作神話(小屋、失恋、Wisconsin)から、彼のあご髭から想起されるものから、Kanye Westとのパートナーシップがほのめかすものから。『Bon Iver』は6秒の長い沈黙から始まる、それはある種のクリーニングだ。このことは胸に留めておいたほうがいい。

 

 すでに確立されているフォークの文法のルール内で作られた2008年の『For Emma,Forever Ago』と違い、『Bon Iver』は馴染みがなく、拡がりがあり、意欲的だ。この、きらきらと光るソフトロックの上に広がるJustin Vernonのファルセットは、子供のようなあこがれに染められている― 人や場所に対してではなく、意味に対するあこがれに。彼はぎりぎりの高さまで声を押し出し、惜しみないようにも控えめなようにも感じるスタイルで声を操る。その声は曲の表面の上で溶けだし、一つの層、テクスチャとなり、すべてのキーボード、サックス、エフェクトをかけたギターと同等の音として配置される。このアルバムの豊富なレイヤー(それは煉瓦のように幾重にも重ねられている)に関して、馬鹿らしい用語(Vernonがこれらの曲は「サウンドスケープ」だと言及しているとしても)やほとんど理解されないメタファーなしで語ることは、批評的なチャレンジを伴う。究極的には、ただこう言えば十分な気がする。『Bon Iver』は無理やりに集められた、野心的な、時には破壊的な、よく整えられた音でできた1曲の練習曲であると。

 

 また、不明瞭な話法がこのアルバムにはいくつも見られる。曲名は実際の地名からとられたもの(「Lisbon,OH」「Calgary」)と架空の場所からとられたもの(「Hinnom, TX」「Minnesota, WI」)があるが、現実か想像上かというところに大きな違いはない。『Bon Iver』のほとんどの曲は記憶にかかわるものだ― 時間の経過が我々の肉体、愛し方にどのような影響を及ぼすか、いつかの失敗をどのように考えるか、以前の自分自身をどうやって捨て去るか―。

そして最後に、Vernonは欺くのがうまい頭の切れる言語学者であり、ナンセンスなフレーズ(「鎧を通せ、木の真実を身に付けた鎧を」(訳注『Bon Iver』2曲目「Minnesota, WI」の歌詞))と特定できる引用([1]「3番と湖、それは燃え尽きた/廊下はぼくらが祝福することを学んだ場所だった」)を混ぜ合わせる。これは夢のロジックであり、記憶のはたらきを示したものである。リスナーが、言葉の連なりが意味するものをやっきになって探しているかもしれないときに、Vernonとバックメンバーは自己内省の注釈のために十分すぎるサポートを与える。結局のところ、これらの曲は感情のパズルの空いてる場所を埋める虫食いゲームのように鳴らされ始める。「わたしは偉大ではなかった」(訳注『Bon Iver』3曲目「Holocene」の歌詞)というような宣言のなかに見られる、うぬぼれと謙虚さとの激しい矛盾を孕んだコンビネーションによって、虫食いの空白を埋めたいという気持ちがまぎれもなく促進される。2011年という年を分析する際の、最適な手掛かり。--Amanda Petrusich



[1] 訳注 『Bon Iver』3曲目「Holocene」の歌詞なのですが、訳者はこの部分が何の引用なのかわかりません。知っている人がいたら教えてください。原文は"3rd and Lake, it burnt away/ The hallway was where we learned to celebrate"です

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