I was only joking訳したりとか

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『子どもたちは未来のように笑う』 22:28

 

醜い現実の写し絵がインターネットに溢れていて、終わりなき悪意で感覚が麻痺しているような状況が世界のあちらこちらで見られる。そんな時代にあって、映画『キャロル』の賞賛すべき点は、1950年代前半のアメリカという保守的な時代の同性愛者という題材ながら、マイノリティが生きることの困難さではなく、彼らが生きる世界の美しさをリプリゼントしているところだった。抑圧された状況は細部で描かれるが、すべては美しさに昇華される。その優雅な態度は、生きることを豊かにする可能性を示してくれるものだった。

 

駒場アゴラ劇場で現在上演されている宮沢章夫作・演出『子どもたちは未来のように笑う』にも、『キャロル』と隣接するようなエレガンスが宿っていた。

1時間45分くらいの演劇で話はシンプルで理解しやすい。離婚歴のある女性が妊娠をして子どもを産む。その子どもを宿した夜から赤ん坊が生まれた後に女性の友達が様子を見に来るまでの話を、時間軸を前後させながら演じていく。メインのストーリーの周辺には産婦人科の待合室でヒマを持て余す男たちの会話や、イタリアンのレストランを舞台に俳優学校の先生が生徒をナンパする話(振り返ったときの顔ひとつで観客を爆笑させた大村わたるさんの演技は見事だった)といった喜劇的な芝居が用意されていて、更に、途中演者たちは朗読者となり、子どもを産むことに関するあらゆるテクストを朗読する。ガルシア・マルケスにチェーホフ、唐十郎の戯曲から病院のパンフレット、山口智子のインタビューに至るまでありとあらゆる時代、場所で書かれたテクストが読まれる。朗読された内容は上演されるストーリーに直接関わっていくことを周到に避けながらゆるやかな補助線となっていく。メインのストーリーの周りにサブストーリー、その外側に朗読テクストがあるという同心円状の構造を持っていて、オムニバス的にそれぞれが独立したバラバラの場面を「出産」という中心で繋ぎ合わせている。ちょうどステージも正八角形の木枠に囲まれていて、役者たちが円のなかを出入りするような状態になっている。

さて、この物語の中にはヘヴィな状況に追い込まれた女性が二人登場する。ネタバレになるような詳しい内容には踏み込まないが、上演が進むにつれ二人の置かれた立場や心境が明らかになり、観客たちはそれぞれにシンパシーを感じるよう導かれていく。その二人が最後、偶然に出会い、衝突を起こす。このアクシデントは二人の切実さを共有している観客に衝撃を与える。そして、今の日本の社会が持つ矛盾と出口のなさに気づかされる。劇中で描かれた人物設定や状況説明がことごとく活きていて、見事だとしかいいようがない。

ステージが正八角形であることに先程言及したが、完全な丸ではなく角張っていることは注意していいと思う。朗読テクストの一つである川上未映子『乳と卵』が女性的丸さを象徴するタイトルとは裏腹な丸くなりきれない尖った心情を扱っていたように、この作品も穏やかな円には決して成り得ないささくれだった状況を表象している。これは社会を構成する人々がイメージする母親像から外れてしまった女たちの話なのだ。そして、疎外された女たちがお互いを傷つけ合う話なのだ。

ここまでの全てでも十分すぎるほどのクオリティだ。だが、ここからがすごい。俳優たちが退場してすべてが終わったと思った後にある曲が流れて、再登場した俳優たちが踊りだす。緊張が緩和されて暖かい気持ちになると同時に、それまで続いてきた演劇の内容と曲が呼応していてビリビリする。ラストシーンと最後の曲の流れははとても美しく、勇気を与えてくれる。大村さとるが二つある出口のどちらから出るか迷うおっちょこちょぶりを示すところまで素晴らしい(筆者は二度上演を見ているが同じ行動をしている、つまり天然ではなく明らかに演技だ)。『こどもたちは未来のように笑う』は醜い現実を伝えるだけじゃなく、醜さの中から美しさが立ち現れる瞬間を、困難の中で生きることの可能性を捉えた豊かな作品なのだ。タイトルにはなんのアイロニーもないのだ。「そう、今は黙ろう。君の両親も、いつかはわかってくれるかもしれない。顔を上げて、目的地へ行こう。時には大きな困難に、ぶち当たるとしても」

 

http://www.komaba-agora.com/play/4334

 

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